『抵抗都市』 佐々木譲 > 「このミス」完全読破 No.1118
「このミステリーがすごい!」完全読破 No.1118
『抵抗都市』 佐々木譲
「このミス」2021年版 : 12位
受賞(候補) :
総合ランキング :
年度ランキング : 「ミステリが読みたい!」 15位
読了日 : 2020年2月26日
読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"前"
読んだ版 : 単行本 <2019年12月>
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舞台となるのは、日露戦争終結から11年後の大正5年。
東京の日本橋川で身元不明の他殺死体が発見されたため、警視庁刑事課捜査係の特務巡査である新堂裕作は、西神田署の多和田善三巡査部長と共に捜査を行うことに。
被害者の胸ポケットに入っていた紙切れに書かれた謎のメモを捜査のきっかけにしようとしたところ、警視庁総監直属の高等警察である官房室の佐浦がなぜか死体を検めに事件現場にまで直接やって来て、しかも現場周辺で聞き込みを行っていると今度はロシア統監府保安課のコルネーエフ憲兵大尉がこの事件について聞きに来て....。
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というわけで本作は著者お得意の警察小説ですが、今回は現代ではなく大正時代の話で、しかも改変歴史SFものの警察小説なのです。
改変歴史SF要素について少しだけ詳しく説明してみますと、“日露戦争で日本が敗れていたら”という仮の世界が描かれていまして、それによりロシアと講和条約が結ばれ同盟国になったとはいえ、実質的にはロシアの属国・占領下も同様の立場で、東京にある通りや建物などにロシア名も付けられていたりと、街中にはロシアの支配下にあることを思い知らされるような状況がいたるところで見受けられます。
そんなパラレルワールド的な時代小説ではあるものの、刑事が聞き込みを中心とした捜査を進め、警察内部などの組織が絡んだ思惑などにも巻き込まれつつ事件解決に向けて動いていくという直球の警察小説サスペンスが繰り広げられていきますし、そこに大正時代だからこそ、ロシアの属国設定があるからこその演出が加わることによって、(普通の警察小説では決して得られない)歴史小説や改変歴史SFとしての面白さもあくまで警察小説の中で魅力を放っているのですね。
ただ、これは近年の佐々木譲作品の特徴でもあるのですが、ド派手な見せ場を何度も作ってエンタメ的な盛り上がりを生み出すというよりは、地道ともいえる捜査劇をリアルにじっくりと描いていくタイプですし、やはり改変歴史SF設定について説明する文章も多くなってしまうので、(本の分厚さもあって)読み進めづらかったり物語に入っていきにくく感じたりする人も多くいるかもしれません。
とはいえ、これだけ骨太で実直で丁寧に描きつつエンタメ的な読み応えもあるというのは(警察小説ブームが長く続く中でも)著者の警察小説でしか味わえない唯一無二の魅力と言ってしまっても良いでしょうし、改変歴史SF要素も“仮の世界を楽しむ”という以外にも現代日本に対する問題提起が込められているなど様々な面から見た面白さがあるので、(人を選ぶとは思いますが)異色な要素で効果的に演出されつつ王道的な読み味も圧倒的という新たな領域に踏み込んだ警察小説をじっくりと堪能してみてはいかがでしょうか。
個人的評価 : ★★★★★ ★☆☆☆☆
* 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
(★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
個人的評価の詳しい説明・評価基準は
「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください
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