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「このミステリーがすごい!」完全読破 No.1108
『潮首岬に郭公の鳴く』 平石貴樹
「このミス」2020年版 : 10位
受賞(候補) :
総合ランキング :
年度ランキング : 「本格ミステリ・ベスト10」 10位
読了日 : 2019年12月24日
読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"後"
読んだ版 : 単行本 <2019年10月>
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平石貴樹は、アメリカ文学者として東京大学大学院の教授を長年務めていて、2013年からは東京大学名誉教授となり、これまで多くの研究書や翻訳書を発表しているという凄い経歴の持ち主です。
そんな教授としての活動の一方で、寡作ながら80年代から小説も(しかも研究者としては専門外であるミステリ小説を中心に)発表していて、大学院教授を退任した2013年から“松谷警部シリーズ”を年に1冊のペースで刊行すると、シリーズ1・2・4作目が「本格ミステリ・ベスト10(本ミス)」で11位以上にランクインし、「このミス」でも(ランクインこそ逃したとはいえ)4作目が次点(22位)となり、3作目が本格ミステリ大賞の候補に選ばれるなど、シリーズを通して高い評価を受けることに(4作目でシリーズ完結)。
そして3年ぶりの新作である本作にて「このミス」初ランクイン、それも10位という高順位にランクインとなりました。
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函館有数の資産家であるだけでなく、美しい三人の孫娘たちがテレビにも出演するなど評判となっている、岩倉商事会長の岩倉松雄。
その三女である16歳の咲良が行方不明となり、遺留品が発見された潮首岬で血の付いた鷹の置物が見つかったことで、岩倉家で所持している4本の短冊額に収められた芭蕉の俳句に見立てた事件の可能性が浮上して....。
この事件の謎に船見刑事を始めとした警察が挑んでいくと、過去から現在に到るいくつもの人間関係が浮かび上がってくるのですが、いずれもが因縁深くドロドロとした関係性でありながらむしろドライな印象となっているので、猟奇的な事件とも相まって何とも言えない不気味な雰囲気が漂っています。
しかも有力な容疑者が見つかってはすぐにその容疑が薄くなるというもどかしくて手応えの感じられない捜査が続く中、突如として探偵役が鋭い推理を披露し、衝撃のトリックが明らかになり、驚愕の真相(動機)が姿を現すのですね。
作中の多くが地道な捜査場面ですし、インパクトある演出や展開で盛り上げるタイプでもないので、“「このミス」「本ミス」共に10位にランクイン”という結果から大作感のある読み応えやド派手なミステリトリックを期待してしまうと物足りなく感じてしまうかもしれません。
とはいえ、昭和のミステリを思わすような捜査劇は渋みの効いた通好みの読み味を生み出していますし、そんなじっくりと描かれた捜査劇を経ているからこそ、その対比として推理の衝撃、トリックの衝撃、真相(動機)の衝撃が何倍にも増して感じられるので、(期待の掛け方さえ間違えなければ)特殊設定や捻られた演出などを用いたミステリ作品が全盛の今の時代だからこそ逆に楽しめる(端正な本格ミステリとしての)面白さを心から堪能できるのではないでしょうか。
個人的評価 : ★★★★★ ★☆☆☆☆
* 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
(★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
個人的評価の詳しい説明・評価基準は
「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください
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