『罪の轍』 奥田英朗 > 「このミス」完全読破 No.1088
「このミステリーがすごい!」完全読破 No.1088
『罪の轍』 奥田英朗
「このミス」2020年版 : 4位
受賞(候補) :
総合ランキング :
年度ランキング : 「週刊文春ミステリーベスト10」 2位
「ミステリが読みたい!」 4位
読了日 : 2019年10月9日
読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"前"
読んだ版 : 単行本 <2019年8月>
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東京五輪を翌年に控えた昭和38年、南千住の元時計商宅で強盗殺人事件が発生。
警視庁捜査一課の落合昌夫は、所轄の捜査員である大場茂吉とコンビを組み捜査に当たるも、かつては捜査一課に長く所属していた古株で昔気質で叩き上げの刑事である大場は、落合の若さや大学出の学歴などからつれない態度をとり、単独での捜査も行うなど、ギクシャクした関係に。
そんな中、最近事件現場近くの荷船に住み着き始めたという、その言動により子供たちから莫迦と呼ばれる北国訛りの怪しい青年の浮浪者が容疑者として浮上してきて...。
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というわけで本作は、2020年の東京五輪の前年に発売された、1964年の東京五輪の前年を舞台にした作品なのですが、モデルになった実在の事件(吉展ちゃん誘拐殺人事件)がその年に起きているが故の年設定なので、オリンピックと直接的な関わりのある物語というわけではありません。
ちなみに、史実(モデルになった実在の事件)を正確になぞっているわけではなく、史実通りの部分もあればフィクション部分もあるといった感じだとはいえ、事件の重要部分が史実通りだったりもするので、本作を読む前にモデルになった事件の詳細をウィキペディア等で調べるとネタバレになってしまうのでご注意を。
本作の魅力の一つが警察小説的展開でして、刑事が事件の真相に向かい迫っていく捜査ミステリはもちろん、チームとしての熱い人間ドラマや、初めは反目し合っていたのが次第に名コンビになっていくバディものなどの要素も注ぎ込まれ、そんな刑事たちのキャラクターがとても魅力的であるうえに活き活きと描かれるので、警察小説の面白さが贅沢なほどに溢れ出ているのです。
しかも、日本の警察が初めて体験する大々的な誘拐事件であるため、今では素人でも知っているような誘拐捜査の基本的なノウハウなども全く知らない状況で、試行錯誤し悪戦苦闘しながらの手探り状態とでもいうべき誘拐捜査となるため、それ以降の時代の誘拐捜査では味わえない、この時代だからこその緊迫感が生み出された誘拐捜査劇が繰り広げられていくのですね。
そんな捜査ミステリパートと並行して、宇野寛治という人物を中心とした物語も描かれていくのですが、お金に困る度に空き巣に入るという根っからの犯罪者であるものの、(とある不幸な理由によって)罪悪感など全く覚えず他者への攻撃性もなく生きていくために犯罪と認識せず空き巣を繰り返しているという人物なため、読者としては(犯罪者に向けた嫌悪感だけではない)複雑な感情に強く揺さぶられることになりますし、そんな憎めない宇野寛治が極悪な犯罪にどこまで関わっているのかが物語を通しての謎の一つとなっていることで犯罪サスペンスとしての迫力や求心力が格段に増していくのです。
警察小説と犯罪小説とが絶妙に絡み合った物語は圧倒的な読み応えがありますし、昭和の時代を映し出すだけでなく現代に向けた風刺も感じられるなど社会派な刺激も強烈で、それらを(刑事や犯罪者以外の人物の目線でも書かれた)著者お得意の群像劇形式にて描かれていくのですから、警察小説好きな人も犯罪小説好きな人も(もしかしたらそれ以外の人も)心を震わされてしまうほどの面白さを満足なほどに堪能できるのではないでしょうか。
個人的評価 : ★★★★★ ★★☆☆☆
* 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
(★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
個人的評価の詳しい説明・評価基準は
「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください
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