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「このミステリーがすごい!」完全読破 No.1077
『悪の五輪』 月村了衛
「このミス」2020年版 : 投票数0
受賞(候補) :
総合ランキング :
年度ランキング :
読了日 : 2019年8月18日
読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"前"
読んだ版 : 単行本 <2019年5月>
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舞台となるのは東京オリンピックを翌年に控えた1963年で、映画好きの変人ヤクザと呼ばれている白壁一家の人見稀郎が主人公。
ある日稀郎は親分から、黒澤明が降板したことで席が空いた東京オリンピック公式記録映画の監督に錦田欣明をねじ込むという話を持ち掛けられたため、錦田を五輪映画の監督という大役に抜擢させるべくあの手この手で仕掛けることに。
しかし錦田はまだ代表作と言えるほどの映画を撮っていない中堅監督でしかないばかりか、その横柄な態度により現場スタッフからの評判は悪く、しかも稀郎の周りには裏社会の危険な人間たちが次々と群がって来て....。
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というわけで、2020年の東京オリンピックの前年に発売となったのが、1964年の東京オリンピックの前年を描いた本作です。
まず注目なのは、オリンピックといってもオリンピックの公式記録映画の監督人事を巡る騒動が中心となっているため、映画界が舞台の一つとなっていることでして、戦後間もない時期の活気に満ちた映画撮影現場で起こる騒動や、東京五輪を機に映像娯楽産業の主役をテレビに奪われてしまう予兆が感じられる切なさなど、この時代ならではの映画界の雰囲気が、中堅監督を大物監督へと化けさせるべく奮闘する主人公の目線により映し出されていきます。
ただ主人公はヤクザであるため、監督に実績を積ませるという正攻法の仕掛けだけでなく、金や脅迫などを用いた裏からの手回しの方にも力を注いでいくのですが、やはり日本復興の目玉であり莫大なお金が駆け巡る五輪が絡んでいることもあって、主人公の前には利権に群がる危険人物たちが次々と姿を現してきますし、しかも主人公が先に進むごとに現れる人物の大物度合いが震えるほどに上がっていき、主人公の味方になったり敵になったり敵か味方か謎だったりしていくので、話が進むにつれてスケール感や迫力が盛り上がっていく暗黒サスペンスとなっています。
そんな登場人物たちの多くが実在する著名人で、架空の人物であっても実在の人物のエピソードなどを参考にして人物像が造られていたりもしますし、史実を交えながらストーリーやエピソードなども作られているので、昨年に発表した『東京輪舞』の流れを汲むような“昭和史”がテーマの作品でもあるのです。
そういった内容なので、タイトルに“五輪”が入っているとはいえオリンピックの大会自体には直接関わってきませんし、月村流冒険小説の十八番である熱く激しいアクションシーンも今回は控えめなので、そんな要素を期待してしまうと手応えを感じられないかもしれません。
とはいえ、オリンピックを翌年に控え世間の熱が徐々に高まりつつある中でその盛り上がりを冷めた感情で見つめる主人公の視線というのはまさに2020年の東京オリンピックの前年である今に読んでこそ同調できる楽しみ方かもしれませんし、アクション要素は薄いながらも身も心もボロボロになりながら夢と現実の狭間を掻き分けていくアウトローやくざの哀愁が良い味を出している犯罪小説となっているので、いつもの月村作品とは少々趣が異なるものの、五輪を中心に回る暗黒の熱狂の渦がもたらす昭和の人間ドラマ&サスペンス劇を堪能できるのではないでしょうか。
個人的評価 : ★★★★★ ☆☆☆☆☆
* 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
(★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
個人的評価の詳しい説明・評価基準は
「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください
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