『刑事の慟哭』 下村敦史 > 「このミス」完全読破 No.1075
「このミステリーがすごい!」完全読破 No.1075
『刑事の慟哭』 下村敦史
「このミス」2020年版 : 88位
受賞(候補) :
総合ランキング :
年度ランキング :
読了日 : 2019年7月26日
読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"前"
読んだ版 : 単行本 <2019年5月>
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新宿署の捜査官である田丸茂一は、一年前に起きた連続殺人事件の際に、すでに被疑者が逮捕されたにも関わらずその後も捜査会議の方針に逆らって勝手に単独捜査を行ない、捕まえた真犯人をマスコミが集まり注目されている中で連行したことで、警視庁の面子を潰した形となり、それからは警視庁の刑事はおろか新宿署の同僚からも厄介者扱いされることに。
女性会社員がロープのようなもので絞殺された今回の事件でも毒にも薬にもならないような仕事を押し付けれられた田丸は、鬱積した気分で帰宅する途中、ホストの刺殺死体を偶然発見。
しかも、一見無関係に思える女性会社員絞殺事件との共通点を見つけたことで、連続殺人事件の可能性に気付いたものの、班長にも捜査本部にもけんもほろろに否定されたため、田丸はまたもや(一年前にもコンビを組んだ警視庁の神無木仁と共に)独自の捜査を始めて....。
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というわけで本作は警察(刑事)小説なのですが、主人公は上にも書いたように、警視庁へのバッシングで大荒れになるような演出掛かった連行劇を(意図しての行動ではなく偶然に)演じてしまった一年前の事件の影響で、重要度の低い捜査しか担当させてもらえず、捜査会議で意見を言っても頭ごなしに否定されるようになったため、自分の(捜査官としての)勘を信じるのであれば(捜査会議の方針に反して)秘密裏に単独捜査を行わなければならないという一匹狼的な立場に。
ただこの主人公は、No.27「新宿鮫」シリーズの鮫島刑事を始めとした“むしろ一人で行動する方が好きだし一人で何でも出来てしまう”ような好戦的アウトロー刑事タイプではなくて、“本来なら揉めることなく捜査に加わりたいものの対立意見を空気を読まずに直球で言ってしまうため嫌われる”という好戦的ではないながらヤル気と才能はある窓際族刑事タイプなので、一匹狼刑事とはいえハードボイルドというよりは探偵に近いような読み味(雰囲気)の主人公像になっていたように思います。
そして本作のもう一つの特徴として、抽選で選ばれた市民が裁判員となって裁判官と共に審理に参加する裁判員制度(裁判員裁判)が事件に大きく関わってくることもあり、裁判員制度についての基本知識や問題点などもしっかりと書かれていて、主人公が裁判員裁判を傍聴する場面も結構多いなど、法廷サスペンス的な要素も重要なテーマとなっています。
さらには、SNSにおける正義の暴走や総クレーム社会やテロなどの現代的な社会問題も深く絡んでくるなど、社会派なテーマ性が読み応えたっぷりに描かれていきますし、それが警察ミステリや法廷サスペンスなどのエンタメ要素ともガッチリと魅力的に噛み合っているので、今作も著者お得意の社会派ミステリを心から堪能できるのではないでしょうか。
ただ個人的には、警察が冤罪を連発する(そして疑問を呈するのが主人公だけ)というあり得ないほどの無能集団だったり、主張したいテーマが多すぎて散漫さを覚えたり、その主張も(主人公の独白という形を使って)著者自身の言葉をそのまま書いているように感じられるなど、読んでいて引っ掛かる部分がいくつかあったので、警察小説が中心の前半をかなり面白く読んでいた分だけ後半は少し乗り切れなさがありましたかね。
個人的評価 : ★★★☆☆ ☆☆☆☆☆
* 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
(★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
個人的評価の詳しい説明・評価基準は
「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください
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