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「このミステリーがすごい!」完全読破 No.1058
『ノースライト』 横山秀夫
「このミス」2020年版 : 2位
受賞(候補) :
総合ランキング :
年度ランキング : 「週刊文春ミステリーベスト10」 1位
「ミステリが読みたい!」 2位
読了日 : 2019年3月7日
読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"前"
読んだ版 : 単行本 <2019年2月>
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大学時代の同期が所長を務める設計事務所で働く一級建築士の青瀬稔は、吉野陶太というクライアントからの“あなた自身が住みたい家を建ててください”という依頼を受けて設計を担当すると、その完成した通称“Y邸”は『平成すまい二〇〇選』に掲載されるほどの評価を受けることに。
ところが、その本を見てY邸に興味を持ち事務所に来た新たなクライアントから、“信濃追分までY邸の現物を見に行ったところ、誰も住んでいないようだった”との連絡が。
Y邸を吉野に引き渡してからの四ヶ月の間に吉野とは全く連絡を取っておらず、改めて電話を掛けてみると留守電になっていたため、気になった青瀬は実際にY邸へと向かってみると、やはり家の中は家具や家電が一切ないなど人が住んでいるようには見えず、ただ北の窓を向くように置かれた“タウトの椅子”があるのみで...。
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というわけで本作は、「このミス」1位を始めとしてオールタイムベスト級の評価を受けたNo.594「64(ロクヨン)」以来7年ぶりとなる待望の新作ですが、本作が連載されていたのは2004-2006年なので、初出自体は『64(ロクヨン)』が発売されるより6年も前の作品です(ちなみに『64(ロクヨン)』が連載されていたのも本作と全くの同時期なので、両作共に長期休養前の連載作を後に加筆修正したものとなります)。
そんな本作の一番の特徴といえば、著者の代名詞というべき警察小説ではなく建築士が主人公の作品であることで、バブル崩壊期における挫折やそれ以降続く注文通りに仕事をこなしていくだけの日々、そんな中でY邸の設計をきっかけに元々あった才能ややる気を取り戻していくなどの建築士個人としての物語や、一大プロジェクトの獲得に向けて同僚たちと切磋琢磨していく建築士のチームとしての物語などが繰り広げられるので、お仕事小説的な読み味がありました。
そこにさらに、別れた元妻や娘との関係に、全国のダム建設に携わっていた亡き父との思い出など、家族に関する物語が印象深く交わっていくことにより、警察小説ではなくともさすがは横山秀夫だなと改めて感心させられてしまうほどに圧倒的な読み応えの人間ドラマが描かれていくのです。
ミステリ的には、元依頼者の失踪を中心として謎が謎を呼ぶ展開となりストーリーの先が気になる求心力を生みますし、そんなミステリ要素が人間ドラマと歯車がガッチリとかみ合うかのように見事なまでの絡みをみせることで、ミステリ的展開が進めば進むほど人間ドラマもうねりを上げて動き出し、人間ドラマが動き出せばミステリ的な謎がより輝きを増していくなど、どちらもが動力源となりつつ素晴らしき連動をみせるのですね。
ただやはり、警察沙汰の事件が中心の警察小説と比べるとサスペンス要素はガクッと下がりますし、意外性のある真相や驚愕を誘うトリックなどがあるタイプでもないので(どちらかといえば謎に迫り解いていく過程を楽しむタイプ)、警察小説と同系統の面白さやミステリ要素のみに期待して読んでしまうと手応えを感じられないかもしれません。
とはいえ本作は、これまでの横山作品の定番を覆すような(10年以上前に連載していた作品にいうのは変かもしれませんが)新境地ともいうべきレベルの高いヒューマンミステリとして仕上がっていて、ただその芯の部分にある魅力というのはこれまでの(警察小説も含めた)横山作品と変わらぬものがあったように思うので、(期待の掛け方さえ間違えなければ)サスペンスやミステリやお仕事小説など細かなジャンル分けなど意味をなさないようなそれらを全て含めた“小説”としての面白さや魅力を心から堪能できるのではないでしょうか。
個人的評価 : ★★★★★ ★☆☆☆☆
* 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
(★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
個人的評価の詳しい説明・評価基準は
「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください
【 “横山秀夫”関連記事 】
> No.1058 「ノースライト」
> No.0594 「64(ロクヨン)」
> No.0134 「第三の時効」
> No.0025 「動機」
> No.0003 「半落ち」
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