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「このミステリーがすごい!」完全読破 No.1059
『らんちう』 赤松利市
「このミス」2020年版 : 投票数0
受賞(候補) :
総合ランキング :
年度ランキング :
読了日 : 2019年3月12日
読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"前"
読んだ版 : 単行本 <2018年11月>
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「藻屑蟹」で大藪春彦新人賞の記念すべき初代受賞者となり、昨年(2018年)発売されたデビュー作『鯖』が(「このミス」でランクインまであと少しの25位となったのを始めとして)一部から熱狂的な評価を受け話題を集めた赤松利市によるデビュー二作目です。
"リゾート旅館の総支配人が殺された"との通報を受けて警察が現場である旅館に向かうと、総支配人室に絞殺された死体が。
通報もした従業員が犯行を認めたものの、なんとその場にいた従業員六人(一人は元従業員)全員が協力して総支配人を殺害したと自供し始めて....。
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そこからは、容疑者六人それぞれが、犯行前後の行動、そして犯行に至るまでの状況について自供していくのですが、そこで語られるのは、醜く不潔で大食漢というまさにキモデブな容姿、部下に対する理不尽で無神経で高圧的な態度、気弱なくせに傲慢で自尊心が強く我が儘でサディスティックな性格など、これなら殺されてもしかたないなと思ってしまうほどに酷すぎる総支配人の人間性なのです。
とはいえ、六人が共謀して一人の人間を殺すという余程のことがない限り起きないであろう事件の割には、そんな犯行に至るほどの強い殺意が誰からも感じられないので、読者も取り調べしている刑事も次第にモヤモヤした心情になっていきますし、容疑者たち自身についての供述に入っていくと、相対的貧困層の実態や洗脳色の強い自己啓発セミナーなどについて語られ始めるので、それによってますます読んでいて困惑していく事態に。
さらに終盤になって今度は関係者の証言が語られ始めると、最初の頃には想像もつかなかったような人間関係や事件の構図(つまりは真相)がゾクゾクするほどの不気味さと共に浮かび上がってくるのですね。
そういった感じの作品なので、センセーショナルな殺人事件で幕を開けたにしてはミステリ的にもサスペンス的にもそこまでガッツリとした読み応えはなく、事件の大まかな真相も途中で予想しやすいと思うので、殺人事件の謎や推理などが中心のミステリ劇(またはサスペンス劇)を期待して読んでしまうと拍子抜けしてしまうかもしれません。
とはいえ、真の殺害動機には“まさかそんなことが一番のきっかけだったとは....”と唖然としてしまうほどの“風が吹けば桶屋が儲かる”的な捻くれた意外性があります(なので読む前にはネタバレが書いてある単行本の裏帯になるべく目を向けない方が良いかも)。
それになにより全編が容疑者たちの自供(および関係者たちの証言)による一人語りのセリフだけで構成されていることによって、得体のしれない歪な不気味さが効果的に膨れ上がっていくように感じられるなど、一癖も二癖もある変わった物好きの人向けとでも言うべき作品なので、多くの人が楽しめるタイプではなさそうではありますが、好きな人であれば本作から生み出される魅惑の沼にどっぷりとはまってしまうのではないでしょうか。
個人的評価 : ★★★★☆ ☆☆☆☆☆
* 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
(★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
個人的評価の詳しい説明・評価基準は
「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください
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