『黙過』 下村敦史 > 「このミス」完全読破 No.1026
「このミステリーがすごい!」完全読破 No.1026
『黙過』 下村敦史
「このミス」2019年版 : 32位
受賞(候補) :
総合ランキング :
年度ランキング :
読了日 : 2018年7月31日
読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"前"
読んだ版 : 単行本 <2018年4月>
黙過 (文芸書) 下村 敦史 徳間書店 2018-04-21 売り上げランキング : 164094 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
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本作は、「優先順位」「詐病」「命の天秤」「不正疑惑」「究極の選択」という五つの中短篇から成っています。
まず「優先順位」は、大学病院が舞台で、すぐにでも肝臓移植をしなければ死んでしまう患者自身の臓器提供を巡っての(院内で出世争いもしている)二人の准教授による(足の引っ張り合いのような)駆け引きが描かれていくのですが、そんな中で突然、意識不明の患者が病室から忽然と姿を消す事件が発生。
「詐病」は、パーキンソン病が発症したため(厚生労働省の)事務次官の職を辞した父と、父のために仕事を休職して介護している兄が住む実家に(数年ぶりに)帰って来た弟が、父が安楽死を考えていることを聞かされ動揺したその直後、父が実は(兄にも内緒で)パーキンソン病を演じていたことが分かって....。
「命の天秤」は、前の二篇とは違って医療関係の話ではなく、動物愛護団体から嫌がらせのような抗議を受けている養豚場が舞台で、ある日突然、分娩豚舎にいた母豚十頭全ての胎内から子豚が消え、さらに母豚たちにも異変が。
「不正疑惑」は再び医療系の話で、心臓移植手術の甲斐もなく娘を亡くした准教授が、学術調査官という立場を利用して不正受給に関わっていた疑惑を突き付けられた直後に自ら命を絶ったため、本当に不正をしていたのかどうかや自殺の謎を、准教授の大学時代の同期である研究者と、不正疑惑を追っていた医療ジャーナリストの二人が協力して取材していく話です。
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そしてラストにして唯一の中篇である「究極の選択」は、繋がりなど感じさせなかった前四篇のその後を一つにまとめつつ進んでいきまして、ここに来て本作は(ノンシリーズ短篇集ではなく)連作集だと判明します。
なので、未読の人にこれを教えてしまうのはネタバレのようではあるものの、この章の冒頭に「前知識が必要なので必ず他の四篇の読了後にお読みください」という注意書きもあるため、ネタバレではないと判断しました。
最後の章を読むうえでの前提条件とでもいうべき四つの短篇は、生命が取り扱われ生と死が身近に感じられる作中舞台において、臓器移植 尊厳死、動物愛護など深く考えさせられてしまう社会派なテーマが絡んだ人間ドラマがそれぞれ繰り広げられるので、サスペンス的なヒリヒリとした迫力は半端ないものがありますし、そこに先(真相)が気になってしまうような謎が巧妙に仕掛けられているため、社会派ミステリ短篇としての魅力や求心力がどの作品からも強く放たれていました。
そんな四篇が最終章で一つに絡み合い、(短篇として完結したかに思われた)それぞれの謎やストーリーにもさらにその先の道が示され、(一つでも深く重い読み応えだった)命の倫理が関わる社会派なテーマも熱量や刺激がそのままに注ぎ込まれつつ、新たな物語が生み出されていくのですから、この最終章が面白くならないわけがないのですよね。
ただ、クライマックスにおける怒涛の展開というのが、物語やエンタメ要素における(感覚的に堪能できる)“うねり”というよりは、医療などの専門知識を屈指した(頭脳的に堪能する)“うねり”といったタイプなので、物語性やエンタメ性にのみ期待してしまうと少々小難しく感じられるかもしれません。
とはいえ、いきなりこの真相やクライマックスでのやり取りを提示されても(多くの読者が)戸惑ったり理解しにくかったりしそうなところを、テーマや物語を分けた四つの短篇をまず描くことで自然と医療に関する専門知識やテーマ性など理解しやすく物語に入り込めるようにしたこの構成の技がとにかく素晴らしいですし、社会派ミステリを書き続けてきた著者ならばこその面白さが存分に発揮された作品といえるのではないでしょうか。
> 個人的評価 : ★★★★★ ★☆☆☆☆
* 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
(★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
個人的評価の詳しい説明・評価基準は
「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください
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