『皇帝と拳銃と』 倉知淳 > 「このミス」完全読破 No.1002
「このミステリーがすごい!」完全読破 No.1002
『皇帝と拳銃と』 倉知淳
「このミス」2019年版 : 30位
受賞(候補) :
総合ランキング :
年度ランキング : 「本格ミステリ・ベスト10」 14位
読了日 : 2018年1月20日
読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"前"
読んだ版 : 単行本 <2017年11月>
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「運命の銀輪」「皇帝と拳銃と」「恋人たちの汀」「吊られた男と語らぬ女」の四篇を収録した中篇集です。
ストーリーの繋がりはないので連作ではなく、探偵役が共通しているシリーズ中篇集となっています(ただちょっとだけ連作的といえそうな要素もあります)。
そしてもう一つの大きな共通点というのが、四篇全て(冒頭で犯人と犯行の一部を読者に明かしてから物語が進んでいく)“倒叙ミステリ”であるということ。
“倒叙ミステリ”と聞いてもピンとこない人に分かりやすい例を挙げるのなら『刑事コロンボ』、もう少し例を新しくするなら『古畑任三郎』、それでも古いのならNo.45「容疑者Xの献身」、せめてここ5年以内の例でと言うなら2014年に連続ドラマ化された“No.683「福家警部補」シリーズ”といえば分かりやすいでしょうか。
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「運命の銀輪」はコンビ作家の片方が相棒によって通り魔に見せかけ殺された事件で、表題作の「皇帝と拳銃と」は“皇帝”と称される主任教授への恐喝者が大学構内で転落死した事件。
「恋人たちの汀」は叔父を刺殺した小劇団演出家が恋人と共にアリバイ工作を企む事件で、「吊られた男と語らぬ女」は彫刻家がアトリエで首つり自殺に見せかけて殺された事件。
これらの事件が倒叙ミステリ形式で語られていくのですが、トリッキーな設定やド派手なトリックはなく正統派で直球の倒叙ミステリとなっていまして、倒叙ミステリならではの探偵役と犯人とのスリルある駆け引きが面白いのはもちろん、話によっては(読者にも隠さている)犯行トリックや犯行動機などの謎が(読んでいて)興味を引きますし、それらの謎に対して探偵役がわずかなヒントを基に推理を積み重ねて真相へ迫っていくなど本格ミステリとしての読み応えもさすがの一言です。
そして倒叙ミステリ作品の探偵役といえば印象的なキャラクターが多いのが通例で、本作の探偵役である乙姫警部もその例に漏れず、黒いスーツにネクタイ、痩せて長身の体躯、削られたような頬、鋭い顎、鉤鼻、大きく尖った耳、黒い洞穴のような目、陰気な佇まい、感情を全く出さない表情や態度などから“死神”を連想させるキャラクターは、部下でイケメンの鈴木刑事との対比により不気味さがさらに増し、犯人にも読者にも強烈なインパクトを残します。
個人的に倒叙ミステリは、探偵役にしつこく執拗に追い込まれていく犯人に感情移入してしまい、読んでいて辛い気持ちになってしまうのでどちらかといえば苦手なのですが、本作の場合はこの乙姫警部が事件の謎のみに興味を示して淡々と無感情に推理していくタイプということもあり、犯人を追い込んだり責めたりといった感じにはならないので、あまり心苦しくならずに楽しめましたね。
本作はそういった作品なので、ミステリ要素の意外性や奇抜さ、それに倉知作品の特徴の一つであるコミカルさなどに期待してしまうと物足りなさを感じてしまうかもしれないものの、“死神刑事”による推理劇には倒叙ミステリの王道的な面白さが詰め込まれていると思うので、読めばシリーズ続編を熱望する気持ちも高まってしまうのではないでしょうか。
> 個人的評価 : ★★★★★ ★☆☆☆☆
* 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
(★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
個人的評価の詳しい説明・評価基準は
「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください
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