『ダークナンバー』 長沢樹 > 「このミス」完全読破 No.969
「このミステリーがすごい!」完全読破 No.969
『ダークナンバー』 長沢樹
「このミス」2018年版 : 55位
受賞(候補) :
総合ランキング :
年度ランキング :
読始:2017.7.17 ~ 読終:2017.7.21
読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"前"
読んだ版 : 単行本 <2017年3月>
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主人公は、警視庁刑事部捜査支援分析センター分析捜査三係の係長、渡瀬敦子。
小平市、小金井市など東京西部で起きている連続放火事件を担当することになるのですが、元々は研究職を希望していたこともあり(それを見越して鍛え上げた)プロファイリング(分析)能力を有効活用した捜査を行っていきます。
そのため(通常の捜査と比べて)変化球的な面白味のある捜査劇となっている一方、プロファイリング捜査がまだ日本では馴染みでないうえになかなか成果を出せないこと(そして役職のある女性捜査官ということ)から周囲の反発を招く要因にもなり、そこから警察内部(組織)のドラマを描く警察小説的な読み味も生み出されていました。
ただ特に前半部分は、登場する刑事それぞれに分かりやすいキャラクター付けがなされていないこともあって誰が誰なのか判別しにくいですし、事件の複雑さに加えて(複数ある)事件現場周辺の様子や捜査過程が(具体的な地名を出しつつ)結構細かに描写されているので、東京西部から埼玉県辺りの土地勘が少しでもないと状況を理解しにくいかもしれません。
なので、登場人物の特徴を簡単にメモ書きしたり、(主人公と同様に)タブレットやスマホなどで事件現場周辺の地図を眺めつつ読み進めれば、少しでも理解度が増すのではないでしょうか(その分手間暇がかなり掛かりますが)。
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そんな捜査劇と並行して、テレビ局の外信部海外素材版権デスクである土方玲衣の物語も繰り広げられていくのですが、こちらの方は(現役テレビマンである著者の経歴が活かされている)報道番組制作の裏側に迫った業界ドラマとなっていますし、こちらの主人公は“鬼姫”と呼ばれるほどに強烈なキャラなので、(捜査サイドと比べて)生き生きと描かれているように感じました。
そしてこの“鬼姫”こと玲衣は報道記者復帰を目指していることもあって、(版権デスクの仕事をこなしつつ)埼玉県で起きている連続路上強盗致死傷事件について取材していたところ、連続放火事件との関わりが見えてくることに。
実は敦子と玲衣には(仲が良かったわけではないけれど)中学校時代の同級生という繋がりがあり、その縁を利用してお互いに(ガッツリではなく間接的に)協力していくのですが、その関係性にはバディ(相棒)もののような熱さがありますし、犯人側の策略に対し苦戦していた警察(敦子)側が攻勢に転じて捜査が一気に動き始めてからの展開は、“これぞ(事件捜査系)警察小説のカタルシス!”といった感じの熱量を伴いつつ迫力満点に突き進んでいくのですね。
というわけで本格ミステリ系の作品を発表して来た著者による警察小説となりますが、監視カメラが捜査に深く関わるなど著者の得意技である“視線トリック”が使われていたり、本格ミステリ的ともいえる複雑に絡み合った事件の構図が物語の中に溶け込んでいるなど、あくまで“長沢樹ならでは”の警察小説であったと思います。
ただ(特に単純明快でドラマ性を重視した警察小説を期待してしまうと)そんな複雑さや読み進め辛さに対してマイナスに感じてしまう人も多くいそうではあるものの、そこら辺も問題なく楽しめるのであれば、本格ミステリ系作家としての魅力を残しつつ警察小説(捜査ミステリ)に挑んだことで生まれた新境地を心から堪能できるのではないでしょうか。
> 個人的評価 : ★★★★★ ★★☆☆☆
* 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
(★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
個人的評価の詳しい説明・評価基準は
「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください
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