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「このミステリーがすごい!」完全読破 No.973
『ストラディヴァリウスを上手に盗む方法』 深水黎一郎
「このミス」2018年版 : 投票数0
受賞(候補) :
総合ランキング :
年度ランキング :
読始:2017.8.11 ~ 読終:2017.8.12
読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"前"
読んだ版 : 単行本 <2017年5月>
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「ストラディヴァリウスを上手に盗む方法」「ワグネリアン三部作」「レゾナンス」を収録したノンシリーズ中篇集です。
最初に収録の(書き下ろしである)表題作は、No.104「エコール・ド・パリ殺人事件」、No.251「花窗玻璃」を始めとした“芸術探偵シリーズ”の一篇でして、お馴染の芸術探偵こと神泉寺瞬一郎と伯父の海埜警部補が登場。
かつて瞬一郎と共にヴァイオリンを習っていた武藤麻巳子が国際コンクールで優勝して凱旋コンサートを行うため、瞬一郎は伯父を誘ってその演奏会へやって来たところ、開演直前に麻巳子が使う予定だった時価数十億のヴァイオリン、ストラディヴァリウスの盗難が発覚。
そのため、コンサート会場全体が密室と化したこの事件に瞬太郎たちが挑むことになるという本格ミステリ度の高い作品ですが、序盤からヴァイオリンという楽器自体やそれに関わる蘊蓄が語られていくのは“芸術探偵シリーズ”らしく、大胆でシンプルながら(それ故に)あっと驚かされてしまう事件の真相もあくまでヴァイオリン蘊蓄の一環となっているところもこのシリーズならではの特徴が徹底されていてお見事でした。
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続く「ワグネリアン三部作」は、「或るワグネリアンの恋」「或るワグネリアンの蹉跌」「或るワグネリアンの栄光」の三篇から成っていて、これらは日本ワーグナー協会が年に一回編纂している研究誌『ワーグナーシュンポシオン』で連載されていたものです。
最初の二篇「~の恋」「~の蹉跌」は、結婚・就職といった人生の大事な岐路に立たされた熱狂的なワグネリアン(ワーグナーの愛好家)がそれぞれ主人公の短篇で、やはりワーグナー関連の蘊蓄を絡めつつ比較的軽いタッチで描かれていて、ミステリ度は高くないけれど思わずニヤリとしてしまうようなオチが待っています。
続く三篇目の「~の栄光」は、ワーグナーをテーマとした『カルトQ』的なテレビクイズ番組の収録風景が一人の回答者の目線で描かれていくというもので、ここでは蘊蓄が(回答者へ出題される)クイズという形で登場するのも面白いですし、終始コミカルで楽しい雰囲気となっていて、そんな作風にふさわしい大オチで見事に締められていました。
そして最後に収録の「レゾナンス」は、プロを目指せるほど上手くはないながらヴァイオリン教室に通う高校生が主人公で、ヴァイオリンや雪国の蘊蓄を絡めつつ主人公の青春時代ならではの揺らめく心情が語られていくのですが、ミステリ的な事件や騒動が(起きそうな雰囲気を漂わせつつ)結局何も起きぬまま物語は終わります。
それもそのはず、この作品は(著者が学生時代に編集の手伝いをしていたという)『三田文学』に掲載された処女作で(今から30年前の1987年に掲載)、掲載誌からもわかるように純文学作品なのですね。
というわけで、ミステリ度合いにも大きな差があるほどに趣向の異なる作品が収録されていて、(唯一の共通点である)クラシック音楽に関する蘊蓄もかなりの量なので、ミステリ的な面白さを期待してしまうと(表題作以外は)物足りないだろうし、蘊蓄部分を楽しめないと読み進めることすら苦痛に感じてしまうかもしれません。
ただ、そんな蘊蓄部分こそが深水作品における大きな魅力の一角なのはもちろん、一冊の本の中で直球の本格ミステリ作品から純文学作品まで同じ作風で楽しめてしまうので、ファンからしたら(これまでになかった)贅沢な作品集ですし、そこまで深水作品のファンというわけではない人でもミステリ作品としての期待を高めなければ(ミステリ的趣向に留まらない)著者の魅力を垣間見れるのではないでしょうか。
> 個人的評価 : ★★★★☆ ☆☆☆☆☆
* 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
(★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
個人的評価の詳しい説明・評価基準は
「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください
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