『追想の探偵』 月村了衛 > 「このミス」完全読破 No.972
「このミステリーがすごい!」完全読破 No.972
『追想の探偵』 月村了衛
「このミス」2018年版 : 93位
受賞(候補) :
総合ランキング :
年度ランキング :
読始:2017.8.9 ~ 読終:2017.8.10
読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"前"
読んだ版 : 単行本 <2017年4月>
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タイトルからして“私立探偵が活躍する物語”なのではないかと想像してしまいますが、本作の主人公は私立探偵ではなく、『特撮旬報』という雑誌の編集長である神部実花。
この『特撮旬報』は“特撮”というかなりマニアックな題材を扱っていることもあり、アルバイトやフリーライターの協力があるとはいえ実質主人公一人で作っているという,、マニア向けの不定期刊雑誌なのです(1話目で隔月刊に変更)。
そんな主人公ですが、消息不明な取材相手を見事に探し出すことから <人捜しの神部> の異名で呼ばれるほどで、そんな特技こそがまさに“探偵”的なのですね。
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というわけで本作は、「日常のハードボイルド」「封印作品の秘密」「帰ってきた死者」「真贋鑑定人」「長い友情」「最後の一人」の6篇を収録したシリーズ短篇集です。
いわゆる特撮作品(映画やドラマなど)は1960~80年代に流行ったジャンルであるため、とある特撮作品や特撮に関わった人物の企画を打ち立てたとしても、(掲載許可を得なければならない)著作権や肖像権が曖昧であったり、作品に関わった人物が行方不明となっているケースも多々あるなど、撮影当時からあまりに年月が経ち過ぎているため(記事を作り上げるには)かなりの困難が待ち受けることに。
そんな時に力を発揮するのが<人捜しの神部>と呼ばれる主人公でして、各話では特撮作品に関わった人物を探し出すため奮闘する姿が描かれていくのですが、捜索対象の人物というのは(今からすれば)マニアックな作品の撮影スタッフや脇役の俳優などですし、(業界を去った)数十年前から行方が分からなくなっている人も多いなど、手掛りは絶望的なほどにわずかなのです。
そんな人たちを特別な捜索方法や能力を使って見つけ出すのではなく、資料を丹念に調べたり関係者から話を聞いたりしてかすかな情報を見つけ出し、そこからまた捜索対象へと繋がる新たな道しるべを探り当て、ようやく目的の人物へとたどり着くという、とても地道な捜索なのですね。
ただ、主人公の仕事に対するプライドや幼少期から培われてきた特撮愛などが執念の塊としてヒシヒシと感じられる捜索劇となっているので、その生き様(人捜しっぷり)はまさにハードボイルド探偵の趣があり(なので若竹七海の“葉村晶シリーズ”の主人公と似た魅力を持っているような....)、人捜しをしていく過程は数十年前に特撮に関わっていた人々の(今では本人でさえも忘れてしまっていた)記憶や想い出や特撮愛を見つけ出していくかのようで、さらに目的の人を捜し当てた際にも心動かされる人間ドラマが浮かび上がってくるなど、地道な捜索であっても読み応えは充分なほどにありました。
今回はそういった作品なので、月村作品の代名詞といえる“機龍警察シリーズ”やアクション系冒険小説と同様の面白さを期待してしまうと物足りなさを感じてしまうかもしれませんし、“特撮”に“人捜し”というマニアックで派手さの無いテーマなので好む人を選ぶタイプだとは思いますが、これまでの月村作品の中ではミステリ度が高めで、ベタなんだけれど感動を呼ぶ人情ドラマ部分などは相変わらずの巧みさだったので、読めばこれまでの月村作品らしさを残しつつも新たな読み味が生み出された本作を堪能できるのではないでしょうか。
> 個人的評価 : ★★★★★ ★★☆☆☆
* 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
(★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
個人的評価の詳しい説明・評価基準は
「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください
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