『三つの悪夢と階段室の女王』 増田忠則 > 「このミス」完全読破 No.970
「このミステリーがすごい!」完全読破 No.970
『三つの悪夢と階段室の女王』 増田忠則
「このミス」2018年版 : 投票数0
受賞(候補) : 「小説推理新人賞」受賞作
『マグノリア通り、曇り』 収録
(「日本推理作家協会賞〈短編部門〉」候補作
『階段室の女王』 収録)
総合ランキング :
年度ランキング :
読始:2017.8.3 ~ 読終:2017.8.3
読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"前"
読んだ版 : 単行本 <2017年5月>
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「小説推理新人賞」は短編作品を対象とした新人賞であるため、(長編作品が対象の新人賞とは異なり)受賞しても即デビューとなるケースはそう多くありません。
本作の著者である増田忠則もその例に漏れず、2013年に「マグノリア通り、曇り」で小説推理新人賞を受賞してから4年後の今年(2017年)、受賞作を収録した本作にてようやくデビューとなりました。
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というわけで本作は、「マグノリア通り、曇り」「夜にめざめて」「復讐の花は枯れない」「階段室の女王」の4篇を収録したノンシリーズ短篇集です。
まず新人賞受賞作の「マグノリア通り、曇り」は、娘を誘拐された主人公が犯人からの指示(要求)に従い行動する“誘拐ミステリー”の形から始まるのですが、予測不能な方向にエスカレートしていく犯人からの指示や、それと共に明らかになっていく主人公の罪、そして究極の選択を突きつけられ極限まで追い込まれていく主人公の姿などが、息もつかせぬほどのスピード感溢れる演出によって描かれていきます。
これとよく似たタイプなのが「復讐の花は枯れない」で、一見普通の社会人である主人公がかなり残酷な復讐のターゲットとなる物語は先を予想しにくい展開が続いていくだけにドキドキ感を呼び起こすほどのスリルがあり、「夜にめざめて」は少しタイプが違うものの、理不尽に追い込まれていく主人公の苦悩や苛立ちが自分のことのように思えてしまうくらいの迫力がありました。
そして最後に収録の「階段室の女王」だけは(単行本のタイトルからも想像できるように)他の3篇とは少々趣を異にしていまして、主人公が徐々に追い込まれていくところは共通しているものの、この話における主人公は僻み根性や他者への無関心などの性格が災いして自らどつぼにはまっていきますし、思考はネガティブなのに気持ちは前向きという曲者キャラの心の声が前面に出ているので、収録作の中では一番好みが分かれやすいと思いますが、好きな人ならこの話が一番のお気に入りとなるかもしれませんね。
そんな作品集全体を通してみると、文章的にも分量的にもスラスラと読み終えてしまいますし、ミステリ要素はそこまで濃くなくてどちらかといえばサスペンス寄りなので、ガッツリとした物語やミステリ的な面白さを期待してしまうとあっさりとした読み応えとなってしまうかもしれません。
とはいえ、普通に生活していたのが一転して窮地に追い込まれていく主人公、無自覚ながら深刻な状況を生み出してしまう罪、悪意が暴走する集団心理、といったテーマが鋭く浮かび上がってくるような物語が見事に作られていましたし、単なるイヤミスでは終わらない刺激や遊び心、それに不条理さや奇妙な味的な感触が独特な雰囲気を醸し出していたので、読めば本作ならではの癖になる魅力を感じられるのではないでしょうか。
> 個人的評価 : ★★★★★ ☆☆☆☆☆
* 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
(★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
個人的評価の詳しい説明・評価基準は
「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください
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