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2017年2月16日 (木)

『月と太陽の盤 碁盤師・吉井利仙の事件簿』 宮内悠介 > 「このミス」完全読破 No.948

「このミステリーがすごい!」完全読破 No.948

 『月と太陽の盤 碁盤師・吉井利仙の事件簿』 宮内悠介

   「このミス」2018年版 : 107位

   受賞(候補) : (「日本推理作家協会賞〈短編部門〉」
               候補作 『青葉の盤』 収録)

   総合ランキング :

   年度ランキング : 「ミステリが読みたい!」 8位

   読始:2017.2.1 ~ 読終:2017.2.3

   読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"前"

   読んだ版 : 単行本 <2016年11月>

月と太陽の盤 碁盤師・吉井利仙の事件簿月と太陽の盤 碁盤師・吉井利仙の事件簿
宮内 悠介

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 宮内悠介は、デビュー作のNo.611「盤上の夜」で日本SF大賞、その翌年に発売のデビュー2作目No.664「ヨハネスブルグの天使たち」で日本SF大賞(特別賞)を受賞し、両作共に「ベストSF(SFが読みたい!)」で2位にランクイン。

 さらに「ベストSF2015」でNo.841「エクソダス症候群」が3位、「ベストSF2016」では『スペース金融道』の2位を始めとして3作同時ランクインを果たすなど(これを書いている時点で発表した6作品全てランクイン)、デビュー以降常にSF作品としての高い評価を受け続けています。

 しかも、1・2作目は(エンタメ小説全般が対象となる)直木賞の候補となり、その2作に加えてNo.894「彼女がエスパーだったころ」の3作は(広義のミステリが対象となる)「このミス」にランクイン、昨年(2016年)の「ミステリが読みたい!」では『彼女がエスパーだったころ』とNo.876「アメリカ最後の実験」が同時にベスト10入りするなど、SFに限らずジャンルの枠を超えた評価をも受けることに。

 ただそれも今から考えればまだまだ序の口で、本作では本格ミステリに挑戦(収録作の「青葉の盤」が日本推理作家協会賞・短編部門の候補に)、その2ヶ月後に発売の『カブールの園』ではなんと純文学を手掛けて表題作がいきなり芥川賞の候補となるなど、書けないジャンルは存在しないのではないかというほどの大活躍なので、もうこうなったらホラーや時代小説や(学園もの等)ライトノベル系作品などもいずれ書いてほしいですね。

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 というわけで本作ですが、「青葉の盤」「焔の盤」「花急ぐ榧」「月と太陽の盤」「深草少将」「サンチャゴの浜辺」の6編からなる(連作に近い)短篇集です。

 副題に名前が入っている吉井利仙というのが、一年のほとんどを山から山へ移動し囲碁盤の材となる立木を見て回るという名うての碁盤師なので、囲碁界が舞台とはいえ、碁盤やその基になる榧(かや)の木などに関する描写が多いため、碁盤ミステリとでもいうべき独特な味わいのある世界観となっています。

 そんな利仙の囲碁棋士時代最後の棋譜に魅せられ利仙を師のように慕う(十六歳ながらプロの囲碁棋士である)槇と共に関わっていく事件や騒動は、碁盤が絡む謎を通して人間の内の方から湧き上がってくるドラマがじんわりと染み入ってくるように語られていくため、今回はいつもとは違うミステリ作品とはいえ従来の宮内作品らしい物語の空気感は健在でした。

 なので、“本格ミステリに挑戦”と強調されている印象ほどは本格ミステリ要素が前面に出ているわけではないものの、探偵役である利仙が真相を語る前に発する「あとは、盤面に線を引くだけです」という決め台詞があったり、表題作などは謎めいた殺人事件が起きて登場人物一覧や事件現場(建物)の見取り図が載っているなど(この章だけ)本格ミステリの王道的な内容だったりもするので、普通のミステリ作品とは少し趣が違うかもしれないけれどあくまで宮内流に仕上げられているミステリ世界を堪能できるのではないでしょうか。


> 個人的評価 : ★★★★★ ☆☆☆☆☆

 * 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
   (★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
  個人的評価の詳しい説明・評価基準は
  「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください


  【 “宮内悠介” 関連記事 】

  > No.948 「月と太陽の盤 碁盤師・吉井利仙の事件簿」

  > No.894 「彼女がエスパーだったころ」
  > No.876 「アメリカ最後の実験」
  > No.841 「エクソダス症候群」
  > No.664 「ヨハネスブルグの天使たち」
  > No.611 「盤上の夜」


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