『ケムール・ミステリー』 谺健二 > 「このミス」完全読破 No.890
「このミステリーがすごい!」完全読破 No.890
『ケムール・ミステリー』 谺健二
「このミス」2017年版 : 111位
受賞(候補) :
総合ランキング :
年度ランキング : 「本格ミステリ・ベスト10」 16位
読始:2016.6.3 ~ 読終:2016.6.7
読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"前"
読んだ版 : 単行本 <2016年3月>
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谺健二は、“児玉健二”名義でアニメーターとして長きに渡り活躍しているのですが、1997年に『未明の悪夢』で鮎川哲也賞を受賞し、その受賞作で作家としてデビュー。
その後も寡作ながら作品を発表し続け、「本格ミステリ・ベスト10」では『未明の悪夢』が3位、『殉霊』が18位、『赫い月照』が8位にランクインと、本格ミステリ作家として高い評価を受けることに(「このミス」では未ランクインではあるものの、『未明の悪夢』が22位、『殉霊』が39位に)。
そして本作ですが、2008年の『肺魚楼の夜』以来8年ぶりとなる待望の新作です。
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老舗製薬メーカー・氷姫製薬の社長である氷姫芳子とその家族が住む邸宅(通称・赤屋敷)では、芳子の孫で高校生の智耶が(ひきこもっていた離れで)自殺して以降、(孫の件をきっかけに引き取り面倒を見るようになっていた)ひきこもりの若者の自殺が数年の間に四件も発生。
これに興味を覚えたのが、レトロ玩具店“夢想郷”の店主である鴉原峪児で、この事案に幼馴染が関わっていたという常連の多舞津知秋と共に赤屋敷を訪れ、連続自殺の謎に迫ってきます。
若者たちの死が(それぞれ異常な状況だったのにも関わらず)自殺と判断されたのは“密室状態”であったからなので、他殺を疑う鴉原は密室トリックの謎に挑んでいくことになるわけですが、妖しい建物に妖しい住民、変人(探偵役)と常識人(ワトソン役)コンビなど本格ミステリの定番ガジェットを魅力的になぞりつつ、インパクトある奇怪な謎が連鎖していくことによって巧みなミステリ的構図が作られています。
なので、本格ミステリならではの面白さを外側(舞台や人物)からも内側(謎やトリック)からも充分に堪能出来ると思うのですが、トリックや真相などはそこまで独自性のある衝撃が生み出されているタイプではないので、本格ミステリ(謎解き)としての読み応えのみ期待してしまうと手応えを感じられないかもしれません。
ただ本作の一番の特徴というのはそんな本格ミステリ要素ではなく、特撮テレビ番組「ウルトラマン」シリーズに登場する宇宙人のケムール人や、ウルトラマンやウルトラ怪獣などのデザインを手掛けた彫刻家・成田亨の作品が物語に深く関わっていることなのです(単行本表紙の写真も成田享の『翼をもった人間の化石』という彫刻作品)。
具体的に説明しますと、まず屋敷の元主人が成田亨作品の大ファンだったこともあり、屋敷内には成田享の絵画が飾られ、ケムール人を始めとしたウルトラ怪獣のレプリカ人形やマスクが数多く並べられているだけでなく、離れはケムール人の頭部を模した形をしていますし、鴉原も特撮(成田亨作品)のファンでフィギュアの原型を作る副業をしているほどなので、ケムール人や成田亨作品に関する蘊蓄的話が全編に渡って登場します。
しかも、ひきこもりの若者たちが外部の人間(数年会っていない家族も含む)と会う時には常にケムール人のマスクを被っていたり、ケムール人の着ぐるみが自殺現場に残されていたりと、ケムール人は事件の謎にも大きく関わって来ますし、それらの場面を頭の中で想像するだけでかなり異様な絵が浮かび上がって来るのですよね。
そのため、本格ミステリとケムール人とのシュールな融合、さらには成田亨作品(特撮)の蘊蓄話を楽しめるかどうかで本作への評価も大きく変わってしまうと思うので、多くの人にお薦めは出来ませんが、そんなシュールさや特撮(造形)話に対して愛おしさを感じられそうな人には強くお薦めしたい作品です。
なお、本作を読む際には、(ケムール人について知らないのであれば)事前にケムール人の写真をネット等で見ておき、読んでいる最中にも成田享作品やウルトラ怪獣の名前などが出る度にネットで画像検索などすれば、作中の異様な世界観をより体感できるのではないでしょうか(検索しても画像が出てこない作品もありますが)。
> 個人的評価 : ★★★★★ ★☆☆☆☆
★★★★★ : 本格ミステリ度
☆☆☆★★ : ビックリ驚愕度
☆☆☆★★ : 熱アクション度
☆☆☆★★ : 鬼畜グログロ度
☆☆★★★ : 主キャラ魅力度
☆☆☆★★ : 人間味ドラマ度
☆☆☆★★ : 感涙ウルウル度
☆☆☆★★ : 下ネタエッチ度
★★★★★ : 衝撃バカミス度
☆☆☆★★ : 気軽に読める度
* 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
(★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
<個人的評価&項目別評価>の詳しい説明・評価基準は
「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください
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