『バラカ』 桐野夏生 > 「このミス」完全読破 No.887
「このミステリーがすごい!」完全読破 No.887
『バラカ』 桐野夏生
「このミス」2017年版 : 73位
受賞(候補) :
総合ランキング :
年度ランキング :
読始:2016.5.22 ~ 読終:2016.5.24
読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"前"
読んだ版 : 単行本 <2016年2月>
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放射線量の高い警戒区域内である群馬県T市で“爺さん決死隊”と自称する犬猫保護ボランティアに参加していた豊田吾朗は、そこで「ばらか」としか喋らない幼児を発見。
そんなバラカ(薔薇香)を中心にして東日本大震災後を描いた作品ですが、関東一帯も避難区域となって首都が関西に移るなど現実世界より震災(原発事故)の被害が大きい(パラレル的な)日本が舞台となっています。
そのため、世紀末的な悲壮感や混沌とした退廃感で覆い尽くされたかのような近未来SF的な世界が生み出されていますし、それでいて(震災の影響が少しでも悪い方にズレただけで)このような世界が現実となっていたんだと改めて思い知らされて恐怖を感じてしまうほどのリアルさもありました。
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ただ本作はそんな震災後の世界のみが描かれるのではなく、酒癖が原因で夫婦関係が最悪な状況になっている日系ブラジル人、結婚はしたくないけれど子供は欲しいため海外の赤ん坊市場を利用しようとしている出版社勤務女性、それを取材することで評価を得て社内での地位を高めようと目論むTVディレクターなどなど、震災前における(狂気も混じり込んだ)欲望が渦巻く人間ドラマも群像劇のごとく繰り広げられます。
その中で、差別・暴力に躊躇なく他人の人生を蝕みながら生きているという人格が破綻した根っからの悪人が登場し、主要人物たちのほとんどと関わっていくため、犯罪サスペンス要素も多少含まれたダークな展開にもなるのですが、その圧倒的な悪の存在感には読みながら震撼とさせられるほどでした。
そんな悪魔のような人物とは対称的なキャラクターであるバラカの存在によって、悪の要素はよりまがまがしく強烈に感じられ、一方で(バラカの存在は)悪や醜さがうごめく世界の中で輝く希望の光となっているので、そんな善と悪を象徴するような二人の人物を中心に描かれる物語は圧巻の人間ドラマとなりますし、そこに震災(原発事故)による負の影響が加わることでさらに圧力を増したエネルギーが脈打つほどの物語となるのですね。
代表作であるNo.034「OUT」と比べれば犯罪サスペンス要素は薄いですし、震災小説ということから現実的な物語を期待してしまうと作品世界に納得できないかもしれませんが、(桐野作品ならではの)欲望が狂気と化すほどのダークドラマとしても震災後を描いた作品としても読み応えあるので、少しでも興味があるのならば震災の記憶がまだ強く残っているうちに読むことをお薦めします。
> 個人的評価 : ★★★★★ ★☆☆☆☆
☆☆☆☆★ : 本格ミステリ度
☆☆☆★★ : ビックリ驚愕度
☆☆☆★★ : 熱アクション度
☆☆☆★★ : 鬼畜グログロ度
☆☆★★★ : 主キャラ魅力度
★★★★★ : 人間味ドラマ度
☆☆★★★ : 感涙ウルウル度
☆☆★★★ : 下ネタエッチ度
☆☆☆★★ : 衝撃バカミス度
☆☆☆★★ : 気軽に読める度
* 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
(★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
<個人的評価&項目別評価>の詳しい説明・評価基準は
「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください
【 “桐野夏生” 関連記事 】
> No.887 「バラカ」
> No.313 「ナニカアル」
> No.202 「IN」
> No.120 「東京島」
> No.034 「OUT」
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