『新カラマーゾフの兄弟』 亀山郁夫 > 「このミス」完全読破 No.871
「このミステリーがすごい!」完全読破 No.871
『新カラマーゾフの兄弟』 亀山郁夫
「このミス」2017年版 : 投票数0
受賞(候補) : (「三島由紀夫賞」候補)
総合ランキング :
年度ランキング :
読始:2016.1.30~ 読終:2016.2.12
読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"前"
読んだ版 : 単行本(上・下) <2015年11月>
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本作は亀山郁夫の小説デビュー作なのですが、いきなり単行本上下巻合わせて1400ページ以上の超大作となっています。
しかもその内容というのが、世界的名著『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)の続編または完結編とでもいうべきものなので、小説デビュー作ということを考えれば量的にも内容的にも無謀としか思えない作品なのです。
しかしこの亀山郁夫というのは、ロシアの文学や芸術に関する評論を数多く発表していて、『破滅のマヤコフスキー』で木村彰一賞、『磔のロシア スターリンと芸術家たち』で大佛次郎賞、『謎とき「悪霊」』で読売文学賞(研究・翻訳賞)を受賞しています。
さらにはドストエフスキーの新訳を中心としたロシア文学の翻訳を手掛け、『カラマーゾフの兄弟』では毎日出版文化賞(特別賞)&プーシキン賞をダブル受賞するなど、評論・翻訳作品ではすでに大御所とでもいうべき実績のある人物なので、小説デビュー作がこれだけのボリューム&内容であっても何らおかしくないのですね。
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“『カラマーゾフの兄弟』の続編または完結編”の部分をもう少し説明してみますと、『カラマーゾフの兄弟』は当初の構成では13年後を描いた第二部の執筆が予定されていたものの、作者の死去により実現されませんでした。
そんな世界的作家&作品の“幻の続編(完結編)”を手掛けてしまおうというものなのですが、同じような狙いの作品としては過去にも、江戸川乱歩賞を受賞し「このミス」を始めとしたミステリランキングでことごとく上位に入った高野史緒のNo.566「カラマーゾフの妹」という作品がありました。
ただ、その『カラマーゾフの妹』の方が原典(ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』)の登場人物や舞台などをそのまま引き継いだうえで13年後の物語を描くというまさに原典の続編的内容だったのに対し、本作は1995年の日本が舞台の(原典における“カラマーゾフ家の兄弟”の生き写しであるかのような)黒木家の兄弟を中心とした物語という驚くべき設定となっています。
しかも、(作者自身を思わす)大学助教授のKという人物の物語も並行して展開していくなど、原典の続編または完結編というよりもオリジナルに近い作品世界・人物・物語が描かれていくのです。
13年前に起きた父の死の謎を軸に据えているのでミステリ小説としての趣向はありますが、黒木家の兄弟を中心とした濃厚な人間ドラマは(膨大なページ数からも推測できるように)ストーリーのみを追っていきたいという読者からすれば無駄な描写が多く感じられるような文学作品的描き方となっていますし、幻想小説的な場面が度々顔を出し、宗教・哲学的なテーマが次第に物語を侵食していくので、ミステリ(エンタメ)小説的なすっきりとした面白さを期待してしまうと(このページ数もあり)読み進めるのが辛くなってしまうかもしれません。
とはいえ、原典における人物・人間関係・エピソードなどを見事なまでに日本を舞台とした物語の中に溶け込ませてしまった(パロディー的な)面白さがあり、原典における謎や父殺しなどのテーマ性も(作者の実績からすれば当然のように)重厚な読み応えと共に含まれていますし、(世界的名著といわれる)原典の作品世界と(阪神・淡路大震災とオウム真理教による地下鉄サリン事件が立て続けに起きた)当時の日本の状況という二つの濃厚な下地が物語の中をかけ巡る血管となって破裂しそうなほどに脈打っているので、物語としての厚みや深みには圧倒されるほどの凄みが感じられました。
それに、大長編小説を読んでいる時にしか味わえないであろう外連味たっぷりで壮大な面白さを満足なほどに堪能出来ると思うので、内容的にもページ数的にも多くの人に薦められるような作品ではないものの、エンタメ作品と文学作品の境界線上を行ったり来たりしているような作品が好きな、具体的に例えるならば奥泉光作品が好きな人なんかにお薦めしたい作品ですね。
> 個人的評価 : ★★★★★ ☆☆☆☆☆
☆☆☆★★ : 本格ミステリ度
☆☆☆★★ : ビックリ驚愕度
☆☆☆★★ : 熱アクション度
☆☆☆★★ : 鬼畜グログロ度
☆★★★★ : 主キャラ魅力度
★★★★★ : 人間味ドラマ度
☆☆☆★★ : 感涙ウルウル度
☆☆★★★ : 下ネタエッチ度
☆★★★★ : 衝撃バカミス度
☆☆☆☆★ : 気軽に読める度
* 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
(★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
<個人的評価&項目別評価>の詳しい説明・評価基準は
「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください
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