『血の弔旗』 藤田宜永 > 「このミス」完全読破 No.842
「このミステリーがすごい!」完全読破 No.842
『血の弔旗』 藤田宜永
「このミス」2016年版 : 9位
受賞(候補) :
総合ランキング :
年度ランキング : 「ミステリが読みたい!」 7位
「週刊文春ミステリーベスト10」 18位
読始:2015.9.28~ 読終:2015.10.1
読んだ時期: 「このミス」ランキング発表"前"
読んだ版 : 単行本 <2015年7月>
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藤田宜永は、1986年のデビュー以来ハードボイルド小説や冒険小説を次々と発表し、1996年版2位の『鋼鉄の騎士』を始めとして「このミス」初期の常連作家でした。
ただ90年代後半から恋愛小説が中心となるなど作風に大きな変化が起き、それもあってか「このミス」のランキングに名前が載ることはなくなってしまいました。
しかし、昨年(2014年)に発売されたNo.956「喝采」が、70年代の雰囲気が漂うハードボイルド作品として高い評価を経て、「このミス」では実に18年ぶりのランクインとなったのですね。
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時は1966年8月、資産家である原島勇平の運転手を務める根津謙治は、原島が裏取引のため屋敷に用意していた現金11億円を(他人の犯行に見せかけて)奪う計画を仲間と立て、犯行時に偶然屋敷を訪れたクラブのママを射殺するアクシデントはあったものの、現金の奪取に成功。
この場面を冒頭に置き、そこからは犯人特定に繋がるような証拠が判明しないよう気を付けながら生きていく根津の物語が繰り広げられていくので、犯罪小説としては倒叙ミステリ的な形となっています。
根津と仲間たちとの関係性は(過去にわずかな接点しかなかったので)他人にバレることは考えられないため限りなく完全犯罪に近いのですが、刑事や闇社会の人間たちは根津が真犯人だと信じて執拗に探りを入れてきますし、時が経ってからも根津たちを脅かし混乱させるような事件が起きるなどするので、読みながら(焦燥感に駆られる)主人公の心境をリアルなまでに体感出来るのでは。
そんな犯罪小説としてのストーリーと並行する形で、(原島の運転手を辞めて以降の)居酒屋チェーン店で徐々に成り上がっていき妻子を得るなど公私共に成功を収めていく根津自身の人生もじっくりと濃厚に描かれていきまして、それが犯罪サスペンスと絡み合っていくことで読み手に対し迫って来る凄みや熱量がより増してくるのです。
そこにさらに昭和の時代や世相を象徴する流行歌・事件・有名人・国民的イベントなどが魅惑的に組み入れられていくことにより、(戦後)昭和史における一つの流れをたどっていくかのような(この時代だからこその)ノスタルジー的雰囲気をも味わうことが出来るので、まさに"犯罪文学"と呼ぶのが相応しいような幹の太い読み応えがありました。
ただ、エンタメ的な派手さや意外性はそれほどでもないですし、やはりハードボイルド色が強めなため、誰もが楽しめるというタイプではないと思うので、犯罪サスペンスとしてだけでなくハードボイルドや昭和文学など大人向けの熟成された魅力も堪能できる人にお薦めですね。
> 個人的評価 : ★★★★★ ★☆☆☆☆
本格ミステリ度 : ★★ 鬼畜グログロ度 : ★★
ビックリ驚愕度 : ★★ おどろおどろ度 : ★★
熱アクション度 : ★★ 主キャラ魅力度 : ★★★
恋愛ラブラブ度 : ★★ 人間味ドラマ度 : ★★★★
下ネタエッチ度 : ★★ 感涙ウルウル度 : ★★
衝撃バカミス度 : ★ 気軽に読める度 : ★★
* 個人的評価は、減点方式ではなく加点方式となっています
(★の数が少なくても面白くなかったということではありません)
<個人的評価&項目別評価>の詳しい説明・評価基準は
「このミス」完全読破 説明&読破本リストにてご確認ください
【 “藤田宜永” 関連記事 】
> No.1116 「ブルーブラッド」
> No.0986 「タフガイ」
> No.0956 「喝采」
> No.0897 「亡者たちの切り札」
> No.0842 「血の弔旗」
> No.0275 「ダブル・スチール」
> No.0271 「敗者復活」
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