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2006年12月

2006年12月15日 (金)

MDB的短期連載小説「青い帽子」(五)

MDB的短期連載小説 「青い帽子」 (五) 】


 「青い帽子」(四)からの続き.....


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 バスがやって来た。このバス停は、大学行きと団地行き、市民病院行き、駅の南口行き、そして今年四月から新たに加わった公民館行きの五種類のバスが来るのだが、今来たのは僕が待っていた大学行きだった。十五分も遅れてやっと来た。


 バスの中にはここ終点で降りる人達がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。そして、前の乗降口から一人ずつ降りてゆく。後払いで、両替えをしている人も結構いるので、その降りる速度は遅い。僕はこの待っている間が嫌で、一気に降りてもらいたいのだが、まるでこのバスが便秘気味であるかのように、一人ずつゆっくりとゆっくりと搾り出されてゆく。


 それを見ながら、老人も僕と同じバスに乗るのだろうか、と考えた。もしもそうなら、大学に着くまでの三十分の間、ずっと青い帽子について聞かされるのだろうか。でもそんなに嫌ではない。


 「君はこのバスに乗るのかね」


 「ええ、そうです」


 「そうかそうか。いやあこんな年寄りのくだらん話を聞いてくれて、本当にすまなかったのう。青い帽子の意味を見つけだすのにあとどのくらいの年月が必要かはわからんが、まあ頑張ってみますよ。君も勉強の方を頑張ってくださいな」


 そう言って老人は、いつも通りの微笑みを浮かべながら、軽く会釈をしてくれた。僕も会釈を返して、全ての排泄物、いやいや全てのお客様を搾り出したバスに乗り込もうとしたが、なにか老人に一言言いたくなった。


 「あなたにとっての青い帽子が早く見つかるといいですね」


 とっさのことだったので大したことは言えなかったが、たぶん気持ちは伝わっているだろう。老人は、いつも通りの微笑を浮かべながら、うんうんと二回ほどうなずいてくれた。それを見て僕はバスに乗り込んだ。


 僕はバスに乗る時は必ず一番後ろの左端の席に座ることにしている。先を越された時は別だが、たいていはこの席に座る。いつも始発から乗るので、かなりの確率でこの席に座ることが出来る。もちろん今日も大丈夫。なぜだかはわからない。どうして一番後ろの左端が良いのかは、自分でもわからない。でも、これは僕がバスに乗る時にやってしまうことに関わりがあるのかもしれない。


 バスに乗るといつも、そのバスに同乗している人を観察している。そしてその人達が、どんな職業で、どういった生活をしていて、どんな性格で、このバスに乗る前に何をしていて、バスを降りたらどこへ行って何をするのか、というようなことを、一人一人想像するのだ。


 例えば、先週バスに乗っていて、やはりその時もいつものように一番後ろの左端の席に座っていたのだが、途中のバス停からとても体の大きい人が乗ってきた。横幅もかなりのものだが、身長も高かったので、太っているというよりは大きいというように見えた。


 その大きさは尋常なものではなく、八畳の部屋が四畳半に感じられ、エレベーターに一人で乗っていても満員に感じられ、サッカーのゴールキーパーを務めていればどんなシュートでも体に当たって弾かれてしまいそうなくらいの大きさだった。


 相撲取りと比べても遜色ないくらいに大きいので、一人用の席にはどうやったって座れるわけがない。ちょうどその時はバスに五、六人しか乗っていなかったので、後ろにある二人用の席はほとんど空いていた。そのため、ホッとしたような表情をして、体を左右に揺らしながら、後ろの方へと向かってきた。運転手も気を使ってか、その人がある程度奥まで入るまでは、バスを止めらままにしていた。


 その体の大きい人は、上下紺のスーツを着て、ストライプのネクタイをして、小さいかばんを持っていた。小さいといっても、それはその人が持っているから小さく見えるのであって、実際には普通の大きさなんだろう。髪形は、ボサボサした感じではあるが、全体的に見て、これといった特徴のない、普通の髪型だった。


 どんどん近づいて来るにしたがって、その大きさが改めて実感できた。でも、あんまりジロジロ見るのはまずいので、外の景色を見ているふりをしながら、チラチラ見ていた。しかし、そんなことをするのは無意味だった。僕のすぐ前の席に座ったのだ。


 目の前で見ると、その大きさは唖然とするものだった。大きいという言葉も当てはまらない。デカイ。なにせ、二人用の席でちょうどいいのだから。少々大袈裟に言えば、それでもキツそうなくらいだった。いや、体が大きいのだから、大袈裟に言っても構わないだろう。肩幅が座席一杯にまである。その上に大きい、いやデカイ頭が乗っかっている。普通の髪型と言ったが、僕の頭にその人の髪の毛を付けるとロン毛になりそうなくらいだ。


 スーツも、目の前で見ていると尋常ではなくデカイ。普通のスーツの何倍くらい生地を使っているのだろうか。シャツも、ズボンも、そしてパンツまでも、特別に作ったものなんだろう。何か身に付けるものを買おうとするたびに、特注で作ってもらわなければならないなんて、とてもご苦労なことだ。


 その人が乗ってきたバス停の近くには、中学校がある。その他にはこれといったものが無いような場所だ。平日の午後六時半過ぎに駅まで行くバスに乗っているのだから、仕事帰りに違いない。とすれば、その学校の先生である可能性は高い。この体だとすると、体育の先生ではないはずだ。生徒にお手本を見せられるものといったら、相撲と柔道くらいしかないだろうから。美術でもないだろう。あのグローブのような手では、細かい作業は苦手そうだ。やはり技能系の教科ではないに違いない。


 だとしたら国語か社会か。僕の経験上、これらの教科には少々太めの先生が多いようだった。以外にも数学かもしれない。体がデカイわりに、細かい計算が得意だったりするのかも。英語はどうだ。このデカイ体は、アメリカの広大な大地と栄養満点のゴージャス・フードで養われたのかもしれない。帰国子女であれば、英語は大の得意であるはずだ。いや、それらの教科ではこの偉大なる体は何の役にも立たない。逆に邪魔な存在になってしまう。この体を生かせるような教科などあるのだろうか。


 あった。音楽だ。音楽があった。この大きな、いや、デカイ体の中に、声を余す所無く幾重にも反響させて、それを溜めに溜めて、ここぞという時に一気に、富士山の火口のようなデカイ口からアルトの重低音バズーカをぶっ放すのだ。普通に歌っただけで、このバスの中に歌声が響き渡り、その低音からして地響きの様に感じられ、大きな振動を与えそうだ。思い切り大声で歌ったら、その歌声は一キロメートル四方に響き渡り、道路脇に流れる川に住む鯉は一度跳ねた後に気を失ってプカプカと浮き上がり、空高く飛んでいる鷹は瞬く間に落下するだろう。


 もしかしたら顔に似合わずテノールかもしれない。女性顔負けの高音。それに男特有の力強さが加わって、ありとあらゆる人々を魅了するくらいのレベルにまで達するのだ。しかしコネや派閥の問題などで賞からは見放され、その才能は世間へ知られることなく、今はしがない中学校の音楽教師に収まっているのだ。だが、未だにシンガーの夢を諦めきれず、こんな所でいつまでもくすぶっていないぞ、と密かにチャンスを狙っているのだ。


 そう考えると、この人への見方が大きく変わってしまった。今まではデカイ体のことばかり気になっていたのだが、今ではこの人の声にことが気になり始めた。ものすごくこのひとの声を聞きたくなってきた。実際にはどんな声をしているのだろうか.....。


 といった具合に、いつもバスに乗り合わせている人のことを想像して遊んでいる。もう何年もそうしているので、今では自然に、いつのまにやら想像し始めている。しかも最近では、バスの中に限らず電車の中や街で見かける人などにもこうやって想像するようになってしまった。それに、これは別に一番後ろに座っていなくても出来ることだ。


 それなので、これはバスの一番後ろに座る理由にはなりえないだろう。いつも理由もなく一番後ろの左端の席に座っているわけだ。新聞をスポーツ欄から見たり、牛乳を飲む時に腰に手を当ててしまうのと同じように。習慣になってしまったのだ。こんないつも何気なくやっているような行動にも、何か凄い意味があるのかもしれないな、と思った。今度誰かに聞いてみようかな、『バスの一番後ろの左端の席について教えてほしいのじゃが』と。


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  「青い帽子」(六)へ続く.....

2006年12月 8日 (金)

『ホワイトアウト』 真保裕一 > 「このミス」完全読破 No.23

このミステリーがすごい!」完全読破 No.23

 『ホワイトアウト』 真保裕一

   「このミス」1996年版 : 1位

   受賞(候補) : 「吉川英治文学新人賞」受賞
            (「日本推理作家協会賞」候補)

   総合ランキング : 「二十世紀傑作ミステリーベスト10」 27位

   年度ランキング : 「週刊文春ミステリーベスト10」 2位

   読始:2006.8.10 ~ 読終:2006.8.23

   読んだ時期 : 「このミス」ランキング発表"後"

   読んだ版 : 文庫本 <1998年6月>

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真保 裕一

新潮社 1998-08
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 織田裕二主演で映画化もされた、雪山冒険活劇大作です。

 なので今の時期(12月)に読むのにちょうど良いのですが、これを読んだのは真夏真っ盛りの8月だったんですよね。その時の状況とは全く正反対の物語を読んでいたわけですが、これが意外と良かったりしたのです。

 逆に状況的にぴったりな今の時期に読んでいたら、雪山の寒さをリアルに感じることが出来て、作品世界をより体感できるとは思うのですが、でもそうなったらなんか読んでくのが辛くなりそうですからね。“寒さを感じるのは現実世界だけで充分!!”ってな感じで。

 そして肝心の内容の方ですが、やはり評判通りに手に汗握り心踊る作品でした。雪山に囲まれたダムという極限に厳しい世界で、テログループと主人公、テログループと人質、テログループと警察、そしてテログループのメンバー同士と、様々な駆け引きがスリル満点で、自分もそこにいるかのような迫力が伝わってきました。

 ただですねェ、話がテログループ中心の時はすごいハラハラドキドキでパパパッと読み進めてしまうのですが、これが逃走しながら反撃を続ける主人公のパートに替わった途端に、雪山の説明とかダムの説明とかが結構長々と始まるので、そこで今まで良い感じだった流れが堰き止められてしまうのですよね。

 しかもそれでも“今ダムのどこら辺にいてどこに行こうとしているのか”といったところがいまいちよく理解できなくて、ちょっとこの主人公パートになると読むテンションが一気に萎んでしまいました。

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 まあとはいえ全体的にもすごい面白かったのですけどね。ただ自分的にはちょっとその部分が引っ掛かっちゃって、読んでて気になりすぎちゃったのです。

 だから“完璧!!”とはいきませんでしたが、それでもやっぱり“すごい作品だなァ”と思いました。なので今度はそこのところをあまり気にしないようにしてもう一度読んでみたいですね。

 それにしても、読んでるときは主人公と織田裕二が全然結びつかなかったですねェ。映画だとどんな感じになっているのでしょうか.....。


  > 個人的評価 : ★★★☆☆ ☆☆☆☆☆


  【 “真保裕一” 関連記事 】

  > No.944 「脇坂副署長の長い一日」

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  NEXT MYSTERY ⇒⇒⇒⇒ 「ストックホルムの密使」 佐々木譲

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