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2006年10月22日 (日)

MDB的短期連載小説「青い帽子」(一)

【 MDB的短期連載小説 「青い帽子」 (一) 】


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 突然、老人に声を掛けられた。あまりに突然のことに、一体何が起こったのか理解できなかった。顔を見ても、今までに見たことのない顔だ。それもそのはず、僕には老人の知り合いなどいない。老人との会話も、ここ何年としていない。とにかく老人というものとは縁がないのだ。それなので、声を掛けられても、自分とは全く関係のない世界で起きている出来事のようで、つい呆然としてしまった。


 駅前に広がる喧騒としたバスターミナル。その中央左端に位置するこのバス停に並んでいるのは僕以外にも大勢いたので、別の人に話し掛けているのかとも思った。しかし、老人の目は真っ直ぐ僕の目に注がれている。丸眼鏡の奥にある目はとても細く、開いているのかどうかさえ疑わしかったが、それでも眼力のようなものが感じられたので、僕の目を見ているのだろうということは何となくわかった。その何となくさがまた僕を混乱させた。


 それ以上に混乱を招いたのは、老人の声だ。本当に老人が話しているのだろうかと疑うくらいに、高く、か細い声でささやいたのだ。まるで若い女の人の声のように。それでも不思議と聞き取れないわけではなかった。周囲の人々のざわめきや、目の前を行き交うバスのエンジンの音、一日の始まりを不安と期待を交えて呼び掛ける鳥たちのさえずり。それらが奏でる騒音の中にあって、老人の声はとても小さいのだが、まるで老人の声だけ他の物音よりも優性遺伝子を多く持っているかのように、やけにはっきり頭の中に入ってきた。突然のことに、言葉の一つ一つを理解することはできなかったので、何を言っていたのかはわからなかったのだが、声の響きだけが脳の奥の方までコダマするのだ。


 しかし、周りの人たちにはこの老人の声が聞こえてはいないようだ。僕以外の耳に届く前に、その声の高さゆえに、空気中を徐々に徐々に昇り上がり、空の彼方へ飛んでいってしまうのだ。距離的に僕の耳は届く位置にある。僕の耳にも届いていなければ良かったのに、と思っても仕方がない。間違えて届けられた宅急便のように、送り返すことなどできないのだから。老人の口から発送された宅急便を、サインなしで受け取らなければならない。いや、サインはしなくては。ただ黙ったままでいては、老人は不快な気分になるだろう。そして、


 「まったく、最近の若者ときたら。皆さん聞いとくれ。ほれ、梅ばあさんも、いつまでもそんな植木鉢など見とらんで、こっちに来なさい。それには何も生えとらんだろうが。まあいい。とにかく聞いとくれ。最近の若者ときたら、全く礼儀がなってないのじゃ。ほんにそうなんじゃ。一体どういう教育を受けてきたんじゃろう。わしにはわからん。わしにはわからんのじゃ、あやつらの考えなど。わかりたくもない。一体何様じゃと思っとるんじゃ。大勢で街中をダラダラと歩きおって。それに、だらしないオベベを着て、わけのわからん言葉をしゃべっとるし。なあ、雁じいさん。あんたもそう思うじゃろ。

 うん、うん。やはり世も末じゃのう。こんな世の中でいいのじゃろうか。いや、いかん。いかんいかん、いかんのじゃ。わしらの若い頃などは、目上の人と話をする時には、『はい』か『いいえ』しか使ってはならんと教えられたもんじゃ。それ以外の言葉を使おうものなら力道山の空手チョップばりの強烈なゲンコツが降ってきてのう。あれはほんに痛かった。しかも、『はい』と『いいえ』しか使ってはいかんと言っておきながら、『いいえ』と答えると、『おまえは、このわしに逆らうのか!その根性叩きなおしてくれるわ!!』と言ってやっぱり強烈なゲンコツなのじゃ。全くまいったもんじゃった。それでも、今の時代よりは比べようもない位に良かった。わしらの時代は良かった。ほんに良かったのう.....」


 などと、町内の老人会か何かで話題にされてしまう。こう見えても僕は、電車やバスに座っている時に近くに老人が立っていれば、そっとその場から立ち去ってさり気なく席を譲るし、エスカレーターに乗るのにタイミングがつかめず時間が掛かっていても、根気良く後ろで待ってあげているのだ。たった一回の失態で悪く言われてしまうのは、たとえ僕の耳にまで届かない場所で言っているのであっても、とても耐えられるものではない。


 「青い帽子について何か知っていることがあれば、教えてほしいのじゃが.....」


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  「青い帽子」(二)へ続く.....

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