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2006年10月24日 (火)

MDB的短期連載小説「青い帽子」(二)

MDB的短期連載小説 「青い帽子」 (二) 】


 「青い帽子」(一)からの続き.....

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 「青い帽子について何か知っていることがあれば、教えてほしいのじゃが.....」


 今度はいくらか老人の言葉が頭に入ってきた。先ほどは、突然のことに、耳も言葉を取り入れる準備が出来ていなかったのか、頭まで回す仕事をし損なったのだろう。しかし今回は確実に、耳の、耳としての、耳のすべき仕事を果たしたようだ。それでこそ僕の耳だ。そこで老人の言葉について考えてみた。


 青い・・・・帽子?

 青い帽子。

 青い帽子!!!


 ここで最初に老人に話し掛けられた時と同じ状態になった。再び頭が回らなくなった。思考の不回転。しかし本当に回転していないのだろうか。たぶん回転はしていると思う。ただその回転は普通の回転とは違うのだろう。いつもより回転が速いのだろうか、遅いのだろうか。


 または、回転し始めてしばらくすると止まってしまうのかもしれない。そして止まったらまた回転し始める。そしてその回転が頂点に達する直前で、再び止まってしまう。永遠の繰り返し。まるで壊れたCDデッキのように。


 または、回転していることはしている。しかし、検索すべきキーワード(今回の場合は「青い帽子」)を<大脳>の中からリサーチできないのかもしれない。『ただ今検索中です』という表示が出たきり、いつまでも待たされるのだ。『お探しのキーワードは見つかりませんでした』と出れば諦められるのだが、僕の大脳の容量は無限だ。『ただ今検索中です』という表示は消えないだろう。消えなくても何かを口に出さなければ。とにかく何かを。


 「青い帽子ですか」


 「そう、青い帽子。青い帽子について知っていることを教えてほしいのじゃが」


 これで同じことを三回も言わせてしまった。二回目まではまだ許せる。しかし、三回も同じことを言わせてしまっては、誰でも怒ってしまうだろう。たとえ相手の説明が悪くても、発音が悪かったり、声が小さかったりしてよく聞き取れなかったとしても、つまり話し手に非があったとしても、「三回も同じことを言わせやがって!冗談じゃない!」となるはずだ。


 しかしこの老人は、別に怒ったようには見えず、むしろ薄っすらと微笑みを浮かべているように見えた。丸眼鏡の奥にも笑みのようなものがキラリと光るのが感じられた。


 ただ、その微笑みは、心底からにじみ出ているというようなものではなかった。まるで、コンクリートで顔の表面を幾重にも塗られ、その上を誰かが塗り立てだとは知らずに誤って歩いてしまい、足跡が付いたままの状態で固まってしまったかのように、シワだらけの微笑みに少しの変化も見せなかった。この顔は、老人にとっては微笑みではなく、何十年も積み重ねてきた平常の顔で、いつでも、どこでも、誰にでも、どんな時でも、たとえアメリカワールドカップのアジア最終予選で起きたドーハの悲劇を生で観戦していたとしても、その微笑みは変わることはないのだろう。


 そのため、あまり良い印象は持てなかった。作り笑顔のように見え、心の中では何を考えているのかわかったもんじゃなかったが、まあ怒っている顔をしているよりはましだな、と思うことにした。


 「別に教えるような大したことは知らないですけど」


 「いやいや、そんなたいそうなことじゃなくてもよろしいんじゃ。ほんに些細なことで....、例えば、小さい頃にこんな青い帽子をかぶっていたとか、最近街でこんな青い帽子を見かけたとか、どんなことでもいいんじゃ」


 しかしまだ『ただ今検索中です』という表示は消えていない。


 「昔、青い帽子をかぶったことがあるかもしれません。街で青い帽子を見たかもしれません。友達の中で青い帽子を持っている人がいるかもしれない。でも、今はどうしても思い出せません。すみませんが、ちょっとお役にはたてそうもないですね」


 がっかりさせてしまったかな、と顔色を伺ってみると、あの薄っすらとした微笑みはまだ固まったままだった。顔の四分の一ほどにかかっている太陽の光が少し眩しそうにも見えた。その部分だけ、コンクリートが剥がれてきているようにも見えた。


 「いやいや、急に見ず知らずの人にこんな突拍子もないことを聞いたんじゃ。すみませんはこっちが言う台詞じゃ。突然聞かれても、すぐに答えられるようなことじゃないわなぁ。いやぁ、すまん、すまん。年を取るとせっかちになっていかん。直そう直そうと思っとるんじゃが、どうしても物事をせっかちになって進めてしまうんじゃ。どうにかならんもんかなぁ。

 今回のことだって、前置きをしてから聞くべきじゃったのに。そうすれば、相手を驚かしてしまうことはないのじゃから。しかし、前置きを付けようにも、付けようがないからのう。天気の話や政治の話や『バスがなかなか来ませんねェ』というような話からしても、青い帽子とは何の脈絡もないから、やっぱり相手を驚かせてしまう。どうせ驚かせてしまうんなら、前置きなど付けん方が楽じゃわい。今回はこれで良かったのかもしれんのう」


 老人は独り言のように話し続けた。目線も、僕の目から、このバス停の真正面にある、営業前のまんじゅう屋の方へといつの間にか移っていた。老人の話の途中で相づちを入れようかとも思ったが、老人の頭の中には僕はもう存在していないようなので、僕も視線をまんじゅう屋の方へ移して黙っていた。


 開店までまだ時間があるようだが、店内では、白い割烹着を着たオバさんが三,四人、忙しそうに働いているのが見えた。こんな朝早くから仕事をしているなんて感心してしまう。それだけまんじゅうに対する熱意があるのだろう。まんじゅうに対する熱意。いつも何気なく口にしているまんじゅうにも、やはり作っている人のまんじゅうに対する熱意が、ベテラン指揮者のごとく、餡の香ばしさと皮のふくよかさが奏でるハーモニーを上手に引き出し、これぞ正真正銘の、まんじゅうの中のまんじゅうだと言わしめるレベルにまで持っていくのに、一役買っていたのだ。そして、熱意のこもったまんじゅうを、今すぐ喉の奥へと突っ込みたい気分になった。喉のずっと奥の方へと....。


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  「青い帽子」(三)へ続く.....

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